以前から骨粗しょう症対策が大切だとお伝えしてきました。今回は、骨の丈夫さを保つために大切な骨量についても説明します。
骨粗しょう症とは
骨の質と量が低下して、とても折れやすい状態になっていることです。若い人の骨量を最大限として、年をとると、だんだん骨の量が減ってきますが、若い人の骨密度を100%として70%をきると骨粗しょう症と診断されます。
私たちの体の中では、血液などと同様に、骨はどんどん壊れながら新しく作られていきます。こうして作り替えられていくのですが、骨が壊れる速さと作られる速さのバランスがくずれると骨の量が減ってしまうと共に、新しい骨の割合が少なくなるため、骨の質も悪くなって、骨のしなやかさ、丈夫さが失われます。骨がもろくなると、背骨(椎体)骨折、股関節(大腿骨近位部)骨折、上腕骨骨折、手首(橈骨遠位端)骨折などが起きやすくなります。骨量は、20~30歳までしか増えません。その後は下がる一方です。
骨の強さ=骨密度70%+骨量30%
骨の丈夫さを測るには、骨密度と骨量も大切です。骨密度は、骨の柱の密度の事です。骨量は骨の健康状態や質の事です。骨を構成する成分やその修復能力、しなやかさに関係します。基本的には、骨量は、骨密度のように測ることが出来ません。骨密度が問題なくても骨量が少ないと骨折しやすくなることがあります。骨密度が正常範囲内だからと言って、将来骨粗しょう症にならないとは限らないのです。
骨を丈夫にするために。
骨粗しょう症は全身の病気とつながる
- 移動能力が落ちる
- 内臓の病気にもつながる
- 呼吸機能が低下
- 寿命が短くなる
FRAXで骨折リスクをチェックできる。
FRAX(Fracture Risk Assessment Tool)とは、今後10年間に骨折を起こすリスクを予測するための評価ツールです。
世界保健機関(WHO)により開発され、現在では世界中で骨粗しょう症の診断・治療の指針として活用されています。FRAXは、骨密度の有無にかかわらず、将来的な「主要骨折」や「大腿骨近位部骨折」のリスクを定量的に示します。これにより、以下のような判断がしやすくなります。
- 骨粗しょう症の治療が必要かどうかの判断
- 骨密度検査の必要性の検討
- 薬物治療や生活改善の優先度の評価
骨密度があるほうがより正確な結果がだせますが、骨密度のデータが無くても計算できる。
FRAXの使い方の簡単な流れ
- サイトにアクセス
- 上のバーの、ホームの横の「計算ツール」から「アジア」を選び、その中の「日本」を選択
- 各項目(年齢、性別、体重、喫煙歴など)を入力
- データがあれば、骨密度のTスコア(大腿骨近位部)を入力(%YAM)の値を入力
- 【計算】をクリック
「10年以内の主要骨折リスク」と「大腿骨近位部骨折リスク」が%で表示されます
骨粗しょう症による骨折後は死亡率が高まる。
椎体骨折(背骨の骨折)が起こった後の1年生存率は70-90%、言い換えると10から30%の方が1年以内に亡くなってしまう。大腿骨近位部骨折(股関節の骨折)後の1年生存率75-85%というデータがあります。
1度でも骨折があったらその後の治療が大切。
1度骨折するとその後の骨折リスクは2.7倍高いので、すぐに、その後にまた別な骨折が起こらないように、骨粗しょう症治療を開始するべきだと言われています。また、一度目の骨折が起こってしまった場合には、その後のさらなる骨折の予防を行っていくことが大切ですが、最初の骨折が起こる前からの予防が最も大切です。
身長が4cm縮んだら、背骨の骨折(椎体骨折)の可能性有り
身長が縮んだら、検査をうけて、背骨の骨折の可能性がないかチェックを受けましょう。骨折があれば、骨粗しょう症治療をしっかりしないといけません。
骨粗しょう症の治療費と骨折の治療費
骨粗しょう症治療の薬剤は高額で、最大月5万円かかります。でも、大腿骨近位部骨折が起こると、250万から550万円もかかりますし、その後のリハビリも必要になります。骨折すると身体に様々な負担が起こりますが、骨折した人に対して、家族が介護しないといけなくなるという負担も生じてしまいます。
骨粗しょう症の治療
骨粗しょう症にかかってしまったら治療を行っていきますが、骨粗しょう症でなくても、更年期の症状があれば、女性ホルモン補充療法を行うことで、骨密度を上げることができます。どちらかというと治療より予防と考えらる対応ですが、骨密度を増やす効果が期待できます。女性ホルモン補充によって、骨粗しょう症予防が出来ます。すでに骨折してしまった場合には、骨粗しょう症治療薬でのさらなる骨折の予防が大切ですが、骨密度が下がる前から、更年期には女性ホルモン補充を行っていくことはとても有効だと考えられます。
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM: Selective Estrogen Receptor Modulator)
SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)は、エストロゲン受容体に結合し、組織ごとにエストロゲン様の作用または拮抗作用を示す薬剤のことです。つまり、ある組織ではエストロゲンのように働き(アゴニスト)、別の組織ではエストロゲンの働きを抑える(アンタゴニスト)という選択的な作用が特徴です。
疾患・症状 | 主な作用 |
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乳がん(特にホルモン感受性乳がん) | エストロゲンの作用をブロック(乳腺でのアンタゴニスト) |
骨粗しょう症 | 骨へのエストロゲン様作用で骨密度を保つ |
更年期障害の一部 | 一部のSERMが更年期症状(ホットフラッシュなど)を緩和 |
更年期の治療に使われるSERM
バゼドキシフェン | 骨粗しょう症/更年期障害の治療 |
女性ホルモン補充療法HRTは、エストロゲン単独あるいはエストロゲン+プロゲスチン(黄体ホルモン)併用によって行われるのが一般的です。ただし注意点として、長期使用により乳がん、子宮体がん、血栓症などのリスクが増加することがあります。女性ホルモン補充療法では、子宮体癌を予防するために、黄体ホルモンをエストロゲンと一緒に併用します。海外では、エストロゲンとSERMがあわさったお薬が発売されています。日本では、まだ一般的な治療と認められてはいませんが、エストロゲンとSERMを使うことで、子宮体癌を予防しながら、乳がんのリスクを増やさないというメリットが得られるので、少しずつ使われ始めています。SERMは、骨に対しては、吸収するのを邪魔して、骨密度を保つ効果が得られます。子宮内膜保護のため黄体ホルモン(プロゲスチン)を使用せずに子宮体癌のリスクを増加させない(バゼドキシフェンが、子宮でアンタゴニスト作用、働きを抑える作用)という効果が得られます。エストロゲンだけでも、骨を丈夫にする効果がありますが、SERMを一緒に使うことで、より効果的に骨を丈夫にして、更年期の治療も出来ます。女性ホルモン補充療法を行っている間は、乳がんと子宮体癌の可能性がないかしっかりとチェックを受けることも大切です。