ホルモン補充療法はいつまでやるべきか?

女性ホルモン補充療法(HRT)とは

女性ホルモン補充療法(HRT: Hormone Replacement Therapy)とは、更年期や閉経後の女性にエストロゲンやプロゲステロンを補充する治療法です。エストロゲン欠乏によって起こる様々な症状をよくしたり、エストロゲン欠乏によって起こるリスクを減らして、健康を保つという目的があります。

女性ホルモン補充療法(HRT)って癌のリスクがあるの?

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女性ホルモン補充療法の投与期間

女性ホルモン補充療法は以前は、できるだけ少量を短期間投与するという考え方がありましたが、現在では、目的に応じて、投与量や期間を考慮するという考え方に変化してきており、ホルモン補充療法で得られる利益とリスクを十分検討して、個別に対応してよいというように変わってきています。

女性ホルモン(エストロゲン=卵胞ホルモン)の役割

  • 排卵や子宮内膜を増殖させて妊娠の準備をする。
  • 乳房を発達させて女性らしい身体をつくる
  • 骨を作る(骨粗しょう症の予防)
  • 自律神経のバランスを保つ
  • 血液中の脂質を正常に保つ
  • 尿道、膀胱に作用する(頻尿、尿失禁の改善)
  • 皮膚に作用する(皮脂量を維持、コラーゲン増加)
  • 肌の表層の角層の水分を保持し、肌の潤いを保つ

女性ホルモン(プロゲステロン=黄体ホルモン)の役割

  • 基礎体温をあげる
  • 受精卵の着床のため子宮内膜を安定させる
  • 乳腺を発達させる
  • 体内の水分量を保つ
  • 食欲を増す
  • 眠くなる
  • 憂鬱やイライラなど精神症状をおこす

閉経とは

月経が丸一年間こなくなった時を閉経と言います。日本人の平均の閉経年齢は約50歳で、45歳から55歳の間でほとんどの人が閉経を迎えます。閉経は月経が来なくなって1年たってはじめて診断出来るので、閉経するまで正確な更年期の時期は、分からないという事になります。というのは、更年期は閉経の前後5年間をあわせた10年間のことを指すからです。

更年期症状と更年期障害。

更年期には女性ホルモンの低下によって、様々な症状がみられます。さらに、ホルモンの変化にくわえて、社会的にも様々な変化がみられる方も多いです。それに伴って、様々な症状が起こってきたりします。具体的な症状としては。ほてりや汗をかきやすい、めまいや動悸、頭痛、肩こり、関節の痛み、疲れやすい、気分が落ちこむ、不眠やイライラなどの精神症状などを訴えられる方も多いです。

簡略更年期指数(SMI)

SMIスコア(Simplified Menopausal Index、簡略更年期指数)は、更年期症状の程度を評価するための質問票です。この質問票を使うことで、更年期の様々な症状がどれだけ重いかを評価することが出来ます。この質問票で51点以上は、更年期の症状について診察治療を受けた方がよいと推奨されています。

女性を美しく保つためにも女性ホルモンは大切。

女性ホルモン減少で起こる皮膚の変化

女性ホルモンの減少に寄って、皮膚のたるみも出てきます。肌の弾力を保つコラーゲンやエラスチンが変化して機能が低下したり、皮脂が減って肌が乾燥しやすくなってしわや肌のたるみも起こってくる。

顔面骨の骨密度の低下で顔がたるむ

顔を支えている顔の骨が、すかすかになっていくことで、顔のたるみが起こっていく。そしてシワもふえてしまう。

抜け毛や薄毛

年齢を重ねると抜け毛や薄毛が増えてきますが、これにも女性ホルモンが関わっています。さらに薄毛にはシャンプーをやめることもお勧めです。

性交痛や性欲低下

これらの症状もエストロゲン低下と関係します。
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人生最高のセックスは60歳からやってくる 原田純著、関口由紀医療監修

ホルモン補充療法の選択

更年期には急激なホルモンの低下があって、様々な体調不良がおこってきます。それに女性ホルモン補充療法を行うというのは、とても大切な選択だと思います。また、ホルモン補充療法を行う期間ですが、50代後半や60代になって、更年期の時期を過ぎて、年齢が高くなったら、女性ホルモンが不要になるというわけではありません。ピークの時期の女性ホルモンの1/2-1/3程度のレベルを維持できるようにエストロゲンを補充し続けるという選択があります。

女性ホルモン補充療法の開始のタイミング

閉経すると、女性ホルモンを働かせるための受け皿(ホルモン受容体)が減っていきます。10年すると、ほとんど受け皿は無くなってしまうと考えられています。できるだけ更年期の時期で、ホルモン補充療法を開始することで、女性ホルモンの恩恵を受けることができる。女性ホルモンを投与し続けていれば、女性ホルモンは身体の中で働くことが出来るので、70歳、80歳と年齢が高くなっても、女性ホルモンによる効果が得られる。

女性ホルモンのメリット

  • 骨を作る(骨粗しょう症の予防)
  • 自律神経のバランスを保つ
  • 血液中の脂質を正常に保つ
  • 尿道、膀胱に作用する(頻尿、尿失禁の改善)
  • 皮膚に作用する(皮脂量を維持、コラーゲン増加)
  • 肌の表層の角層の水分を保持し、肌の潤いを保つ
  • 更年期症状の改善
  • 性機能の改善
  • 心血管疾患のリスクを減らす
  • 記憶力、認識力の改善
  • アルツハイマー病の予防
  • 大腸癌、食道癌のリスク低下
  • 歯の喪失予防
  • 糖尿病発症を抑える

女性ホルモン補充療法のリスク

  • 子宮内膜への刺激による、子宮出血、
  • 子宮体癌、
  • 乳がん
  • 深部静脈血栓症
  • 体液貯留と体重増加

女性ホルモン補充療法(HRT)って癌のリスクがあるの?

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女性ホルモン補充療法が使えない方

  • 重度の活動性肝疾患
  • 乳がんとその既往
  • 子宮内膜癌、子宮内膜間質肉腫にかかっている
  • 原因不明の不正性器出血、
  • 妊娠の疑いがある
  • 急逝血栓性静脈炎、静脈血栓塞栓症とその既往
  • 心筋梗塞、冠動脈の動脈硬化性病変の既往
  • 脳卒中の既往

女性ホルモン補充療法が使えないもしくは使えるがまだ症状が辛い方にプラセンタ療法

プラセンタ療法の効果についてのアンケート結果発表

女性ホルモン補充療法はいつまで行うか

更年期症状の改善を目的にするのなら、更年期にだけ治療を行うという事になります。平均寿命が延びて、閉経後の人生が30年以上ある現代で、寿命は延びたけど、人生最後の10年は介護が必要な状態になってしまう方が多くいます。より若々しく、認知症にならずに、骨折して寝たきりにならずに、元気でよりよい老年期を過ごすという事を目的とするのであれば、70代、80代でも、女性ホルモン補充療法を続けていくことも可能です。

この記事を書いた医師

島袋 史 (ゆいクリニック院長)
  • ゆいクリニック院長
  • 島袋 史
  • Fumi Shimabukuro
  • 【資格】日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、ホメオパシー認定医、新生児蘇生法インストラクター。1970年東京都生まれ、1989年大学入学のため沖縄へ。1995年、琉球大学医学部卒業。琉球大学産婦人科入局。沖縄県内にて研修後、2011年にゆいクリニックを開院。4児の母。小児科医の夫と共に、多くの女性の出産・育児を支援するほか、更年期や月経トラブルなど女性のための治療を行い、ホメオパシーや栄養療法やプラセンタ療法などの自然療法も積極的に取り入れている。特に、小麦や砂糖、乳製品、食品添加物を一切使わない食事をクリニックで提供するなど、食事療法の重要性を説いている。