女性ホルモン補充療法(HRT)って癌のリスクがあるの?

女性ホルモン補充療法とは

女性ホルモン補充療法(HRT: Hormone Replacement Therapy)とは、更年期や閉経後の女性にエストロゲンやプロゲステロンを補充する治療法です。

エストロゲン(Estrogen)とは

エストロゲンは、主に女性の卵巣で生成されるステロイドホルモンで、女性の生殖機能や二次性徴の発達に重要な役割を果たします。エストロゲンにはエストラジオール、エストロン、エストリオールの3種類があり、これらは女性の体内で異なる役割を担っています。

  • エストロン(E1):閉経後の主なエストロゲンで乳がんリスクと関連する。
  • エストラジオール(E2):月経のある時期に卵巣から出てくる主なエストロゲンで、コレステロールを保ち、抗動脈硬化、骨の維持、記憶や疲労の改善などに関わる。
  • エストリオール(E3):妊娠中に主に生成されるエストロゲン。E2より80倍弱く、効果は弱い。乳がんを予防するというデータがある。
主な機能と役割、全身に働きかけます。
  1. 生殖器の発達:エストロゲンは思春期における女性の生殖器の発達を促進します。
  2. 骨や筋肉の健康:骨密度を維持し、骨の健康を保つ役割を果たします。エストロゲンの減少は骨粗鬆症のリスクを増加させることがあります。
  3. 心血管系の保護:エストロゲンは血管の弾力性を維持し、心血管系の健康を保つのに役立ちます。コレステロールのバランスを調整することで、心臓病のリスクを低減します。具体的には、LDLの減少、LDLの酸化予防、HDLの増加です。ホモシステインを減らし、リポ蛋白(a)を減少させます。
  4. 血流改善、血圧低下
  5. 血小板の粘着性の抑制、動脈プラークの減少
  6. 皮膚と髪の健康:エストロゲンはコラーゲンの生成を助け、皮膚の弾力性や水分保持能力を保ち、しわを減らします。肌の水分量を増やし、肌の厚さと柔らかさを保つのをサポートします。髪の健康もサポートします。
  7. 気分と認知機能:エストロゲンは神経伝達物質に影響を与え、気分の安定と認知機能の維持に役立ちます。
  8. 記憶力の維持、集中力を高める、神経成長因子の産生強化
  9. セロトニンなどの脳内神経伝達物質の形成
  10. 睡眠の改善
  11. インスリン感受性の改善、エネルギー代謝向上
  12. うつ病、イライラ、不安の改善
  13. 痛みへの敏感さを軽減
  14. 白内障、緑内障、加齢黄斑変性症のリスク低減
  15. 性的関心を高める
  16. 結腸癌のリスク軽減

エストロゲンが多すぎると・・・

子宮体癌や乳がんリスクの増加、子宮筋腫、体重増加(腹部、腰、太もも)、水分貯留、頭痛、睡眠不足、パニック発作、乳腺の腫れ、月経痛や月経過多、自己免疫疾患のリスク増加、甲状腺機能低下症、疲労感、イライラや不安や興奮を伴ううつ病、

プロゲステロン(Progesterone)とは

主に女性の卵巣で生成されるステロイドホルモンで、妊娠や月経周期に重要な役割を果たします。以下にプロゲステロンの主な機能と役割をまとめます。

主な機能と役割
  • 子宮内膜の準備と維持
    • 月経周期:月経周期の後半(黄体期)に、卵巣の黄体から分泌されるプロゲステロンは、子宮内膜を厚くし、受精卵が着床しやすい状態に整えます。
    • 妊娠の維持:受精卵が着床すると、プロゲステロンの分泌は続き、妊娠初期の子宮内膜を維持して流産を防ぎます。
  • 乳腺の発達:プロゲステロンはエストロゲンとともに、乳腺の発達と乳房の準備を促進します。これは授乳の準備として重要です。
  • その他の生理作用
    • 体温上昇:プロゲステロンは体温を上昇させる作用があり、基礎体温を測ることで排卵日を推定することができます。
    • 排卵を助ける効果がある。
    • エストロゲンとのバランスをとる。
    • 睡眠を促進する。
    • 骨の形成を助ける。
    • 膀胱機能を維持する。
    • 不安やイライラ、気分の変動を防ぐ、
    • 細胞の酸素レベルを回復させる。
    • 脂肪の使用と排泄を助ける。
    • 水分保持:体内の水分保持を助ける作用があります。
プロゲステロンが不足すると・・・

不安、うつ、イライラ、気分の変動、不眠症、痛みと炎症、骨粗しょう症、不正出血

更年期前後のホルモンレベルの変化

35~50歳でエストロゲンは35%減少する。それに対して、35~50歳で、プロゲステロンは75%減少する。閉経が近づくと、プロゲステロンに比べて、エストロゲンの量が比較的多い状態になります。その後、両方のホルモンはほとんど分泌されない状態になっていきます。閉経になっていきなりホルモンが出なくなるわけでは無く、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量の差だったり、ホルモン量も一定で無く分泌されるゆらぎの時期に更年期の典型的な症状であるホットフラッシュやその他不眠、汗が多い、関節痛などの症状が出やすくなります。

合成の女性ホルモンと自然な女性ホルモン

女性ホルモン補充療法で使われる女性ホルモンにははたくさんの種類がありますが、合成ホルモンと人が身体でつくるホルモンと同じ化学構造のホルモンがあります。

エストロゲンの受け皿(受容体)

エストロゲン受容体αとエストロゲン受容体βの2種類があり、αの方は生殖組織のよくない増殖を増やしてしまう。αはアクセルの方向に働きます。β-のほうは細胞の成長を抑えて、乳がんの発症を予防してくれて、身体に有益なエストロゲンの効果を発揮します。エストロゲンやプロゲステロンの種類によってαとβへの影響が異なります。エストロン(E1)はα(アクセル)への作用がとても強く、エストラジオール(E2)は1対1、エストリオール(E3)はβ(ブレーキ)への作用がより強くなります。合成エストロゲンであるプレマリンはαが強くて、β-が弱いです。また合成プロゲステロン(プロゲスチン)のプロベラはαが強くて、β-が弱いです。自然なプロゲステロンと同じ化学構造の天然型プロゲステロンはαを減らしてβを増やします。ということで、閉経後にエストロン(E1)が主なエストロゲンになるので、閉経後は乳がんリスクは増えてしまいます。またホルモン補充療法にプロベラを使うと、乳がんのリスクをとても高めてしまいます。逆に天然型のプロゲステロンを使うと乳がんリスクを増やさないという事になります。

ホルモン補充療法を行うときには、なるべく自然なホルモンに近い形を使う

なるべく身体が作るホルモンと同じ化学構造の天然型のホルモンを使うことで、癌のリスクを減らして、ホルモンのメリットが得られるのです。実際に身体が自然につくるホルモンと同じ化学構造のホルモンを使用することで、癌に対するリスクが低下したという報告があります。

女性ホルモン補充療法での乳がんのリスク

合成型の女性ホルモンを使用したとしても乳がんのリスクはごくわずかにしか高くならず、そのリスクは、運動不足や、ファーストフード等の不摂生な食生活には及ばないといわれています。つまり、合成の女性ホルモン補充療法でも怖がることはありません。ただ、できる限り天然型を使った方が乳がんリスクは減らす事が出来るというデータはあります。女性ホルモン補充療法中は乳がん検診を毎年受けることがお勧めですが、癌にならない生活を送ることが最も大切です。

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閉経後の寿命が長くなった日本人

閉経後も女性ホルモンは働いています。けれども、その量は、月経がある時期に比べるととても少なくなっています。閉経後に何十年も生きるようになった現代人が、元気に若々しく、骨折して寝たきりにならずに認知症にならないで、死ぬまで元気でいるためには、女性ホルモン補充療法はとても有効な手段だと思います。

いつまで女性ホルモン補充療法をするのか

女性ホルモン補充療法の治療の年齢上限はありません。元気でいるためにも死ぬまで続けてもよいのでは無いかと考えます。

女性ホルモンを正しく働かせるために

エストロン(E1)からエストラジオール(E2)やエストリオール(E3)へ変換させるためにお勧めのやるべき事。

  • 甲状腺機能を保つ
  • 肥満を防ぐ
  • 野菜を一日400g食べる(アブラナ科の野菜(キャベル、大根、小松菜、ブロッコリー、白菜、ケールなど)、緑黄色野菜)
  • オメガ3をとる(一日1000mgくらい)
  • ビタミンDをとる(25OHビタミンDで最低40以上)

ビタミンDについて

  • 一日7時間以上睡眠をとる、深い睡眠をしっかりとる。
  • 肝臓のケアのためにサプリメントをとる(リチウムやグルタチオン)
  • ビタミンB6、マグネシウム、葉酸、SAMeなどのサプリメントをとる
  • 週に150分以上運動する(WHOの推奨あり)

健康でいたければ運動は義務です!

運動しましょう!

  • 乳製品をできるだけ控える。

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この記事を書いた医師

島袋 史 (ゆいクリニック院長)
  • ゆいクリニック院長
  • 島袋 史
  • Fumi Shimabukuro
  • 【資格】日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、ホメオパシー認定医、新生児蘇生法インストラクター。1970年東京都生まれ、1989年大学入学のため沖縄へ。1995年、琉球大学医学部卒業。琉球大学産婦人科入局。沖縄県内にて研修後、2011年にゆいクリニックを開院。4児の母。小児科医の夫と共に、多くの女性の出産・育児を支援するほか、更年期や月経トラブルなど女性のための治療を行い、ホメオパシーや栄養療法やプラセンタ療法などの自然療法も積極的に取り入れている。特に、小麦や砂糖、乳製品、食品添加物を一切使わない食事をクリニックで提供するなど、食事療法の重要性を説いている。