長寿の秘密、青い鳥は日本にいた!

家森 幸男(やもり ゆきお)先生の紹介

1937年、京都府生まれ。島根医科大教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て、現在、WHO循環器疾患専門委員、武庫川女子大学国際健康開発研究所長、ハーバード大学客員教授、京都大学名誉教授など。98年紫綬褒章。脳卒中ラットの開発者として世界的に知られる。

家森 幸男(やもり ゆきお)先生の研究

家森先生たちは、1985年からWHO(世界保健機構)の「循環器疾患と栄養国際共同研究(CARDIAC study)」を開始し、30年以上に渡り25か国61地域に足を運んで健康調査を行いました。研究の準備だけで、2年間に地球を3周するだけの距離を旅したそうです。2万人分以上の尿(24時間尿:1日分の尿)と血液を分析して得られたデータにより、健康長寿の食べ方が分かったとのことです。言葉も通じないところで、たくさんの危険な目にあいながらも、血液や尿をもらうような健康調査をおこなってえられた貴重なデータです。

長寿の秘密 : 冒険病理学者が探る世界の長寿食

健康長寿の“賢食”術

遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」

家森幸男先生たちの研究

家森先生は、研究のために、世界のあらゆるところに出向いて行き、その土地の人たちの尿と血液を集めて詳しく分析し、普段どのようなものをどれくらい食べているのかを調べました。そのデータを、元気いっぱいの高齢者がたくさんいる長寿地域と60歳以上がほとんどいないような短命地域とで比較したり、長寿地域から移民して寿命が短くなった人たちについては元々住んでいた地域と移民先とで比較しました。そのような比較検討により、食事が健康状態や寿命にどのような影響を及ぼすかが解明されました。

生命の危険を感じるような危険な目に遭いながらも世界中を旅した。

マサイ族の調査の経験:家森先生がマサイ族の許可を得て血液採取を行った後、2回目にマサイ族の調査を行おうとしたところ、通訳をしていた人が、行きたくないと言い出したのです。マサイ族は、血液を採取することが呪いや悪影響を引き起こすと信じており、家森先生が何か悪いことをしようとしているのではないかと考えて、殺されるかもしれないとの事でした。しかし、家森先生は冷静に対処し、彼らに科学的な説明を丁寧に行い、血液検査が彼らの健康を調べるためであり、決して害を及ぼすものではないことを説明しました。最終的にはマサイ族の信頼を得ることができ、無事に血液採取を行うことができました。検査の際には、槍を持ったマサイの戦士に囲まれながら採血を行って、もしかして刺されるのでは無いかとドキドキしながら検査を行ったそうです。

出された食事で食中毒:家森先生は、世界各地で現地の人々の健康や食生活を調査していたため、さまざまな国や地域での食事を経験していました。研究で血液や尿を頂くので、現地で出された食事はそのまま有り難く頂くようにしていたそうです。その中で、ある国での調査中に現地の食べ物を口にした際、激しい食中毒にかかり、下痢をしたそうです。また、インドの貧民街で天ぷらを食べたところ、腸閉塞と多臓器不全で入院し、命の危険を感じるほどの状態に陥ったそうです。原因は天ぷらのあぶらだったそうで、貧民街の屋台の天ぷら油は、たくさんの使い回しをへて、あつまった油で、相当に酸化していた物だったようです。

ビルカバンバの悲劇

家森幸男先生が紹介した「ビルカバンバの悲劇」とは、エクアドルのビルカバンバという地域で起こった食生活と健康に関する話です。ビルカバンバは、かつて「長寿の谷」として世界的に知られており、住民たちが非常に長寿であることが話題になりました。しかし、後にこの地域で起こった変化が「ビルカバンバの悲劇」と呼ばれるようになりました。

ビルカバンバの長寿の理由

かつてのビルカバンバでは、住民たちが自然に根ざした伝統的な食生活をしており、それが彼らの健康と長寿に寄与しているとされていました。この食事は、主に以下のような特徴がありました:

  • 新鮮な野菜や果物:自然の中で育てられた栄養価の高い作物。
  • カリウム、食物繊維を豊富に含むトウモロコシ、いも(ユッカ)を主食:主食として健康的な炭水化物源。
  • 少ない肉食と豊富な植物性食品:動物性食品は少なく、特に植物性の食事が多かった。あわ、ひえ、チョチョス豆など良質の蛋白源、カルシウムを摂っている。
  • 塩分や脂肪分、加工食品の少なさ:伝統的な食事は非常にシンプルで、現代の加工食品に含まれる過剰な塩分や脂肪、添加物が含まれていませんでした。

「ビルカバンバの悲劇」の始まり

長寿の村に住んで、長寿にあやかろうと、多くの西洋人が来るようになり、観光地化されました。人々はビルカバンバに住めば健康になると思い違いしたのです。村は、近代化とともにビルカバンバに外部の文化や食習慣が流入し、住民たちの生活習慣が大きく変化しました。特に、以下の要因が健康に悪影響を与えたとされています:

  1. 食生活の西洋化:ファストフードや加工食品が地域に入り、住民たちの食事が急速に変化しました。これにより、脂肪分や糖分の多い食事が増え、心臓病や糖尿病などの生活習慣病が増加しました。
  2. 運動不足:近代化に伴う生活の変化により、住民たちが以前よりも座りがちな生活を送るようになり、身体活動が減少しました。
  3. 伝統文化の喪失:若い世代が特に外部の影響を受けやすく、祖先から受け継がれてきた伝統的な健康的な生活習慣が失われていきました。

健康への影響

この食生活や生活習慣の変化により、ビルカバンバでかつて見られた長寿の傾向は急激に低下し、たった十年で、住民たちの健康状態は悪化しました。特に、肥満、糖尿病、高血圧、心臓病といった生活習慣病が急増し、これが「ビルカバンバの悲劇」と呼ばれるようになったのです。

家森先生の指摘

家森幸男先生は、この「ビルカバンバの悲劇」を通じて、食生活や生活習慣の変化が健康に与える影響の大きさを強調しました。特に、現代の食生活がどれほど生活習慣病のリスクを高めるかを警告し、自然で伝統的な食事の重要性を再認識するように提言しています。

「沖縄の健康長寿の崩壊」

かつて「世界一の長寿地域」として知られていた沖縄が、食生活や生活習慣の変化によってその健康長寿の地位を失いつつあります。これは「ビルカバンバの悲劇」と同様に、近代化がもたらす食生活の西洋化や生活習慣の変化が原因とされています。

沖縄の伝統的な健康長寿の要因

かつての沖縄は、長寿で有名な地域で、特に高齢者の健康状態が非常に良好でした。その理由として、以下のような特徴的な生活習慣がありました:

  1. 伝統的な沖縄料理
    • 低カロリーで栄養バランスの良い食事:沖縄料理は、野菜、豆腐、海藻、魚、豚肉などをバランスよく取り入れ、カロリーを抑えつつ栄養価の高い食事でした。特に、ゴーヤー昆布シークヮーサーなどの食材が豊富で、抗酸化作用やビタミン、ミネラルが豊富でした。
    • 豚肉の消費:沖縄では豚肉をよく食べますが、脂肪分の多い部分ではなく、耳や足などのコラーゲンが豊富で脂肪分が少ない部位が主に消費されていました。また、豚肉を食べるのは昔は年に数回しか食べないごちそうでした。
  2. 穏やかな気候と農耕社会:沖縄の温暖な気候と豊かな自然環境は、ストレスの少ない生活を可能にし、人々は体を動かしながら働く農耕社会を営んでいました。
  3. 強いコミュニティの絆:沖縄の文化には「ユイマール(助け合い)」という精神があり、コミュニティの絆が非常に強かったため、精神的な健康が維持されていました。孤立することなく、社会的なつながりを保つことが健康に良い影響を与えていました。

近代化による健康長寿の崩壊

しかし、近代化とともに沖縄の生活習慣や食事が大きく変化しました。この変化が、沖縄の健康長寿に深刻な影響を及ぼし、家森先生たちが「健康長寿の崩壊」と呼ぶ状況を生み出しました。以下のような要因が考えられます。

  1. 食生活の西洋化:ファストフードや加工食品の普及により、脂肪や糖分が多い食事が沖縄でも主流になりつつあります。特に若い世代は、伝統的な沖縄料理を食べなくなり、肉や油脂、糖分の多い食事に依存するようになりました。これにより、肥満、糖尿病、心臓病といった生活習慣病が急増しています。
  2. 塩分摂取の増加:加工食品の消費に伴い、塩分摂取量も増加し、高血圧のリスクが高まっています。沖縄では、かつては野菜中心の低塩食が主流でしたが、近年は塩分の多い食品が一般的になっています。
  3. 運動不足:生活の便利さが増す一方で、身体活動が減少しました。かつては農作業や日常的な身体活動が盛んでしたが、現代の沖縄では多くの人々が座りがちな生活を送り、運動不足が健康問題の一因となっています。
  4. コミュニティの絆の弱まり:都市化や核家族化が進む中で、伝統的なコミュニティの助け合いの精神が弱まり、孤立感を感じる高齢者が増加しました。これは精神的な健康にも悪影響を与え、長寿に寄与する要素が失われつつあります。

結果としての健康悪化

このような要因により、沖縄ではかつて見られた健康長寿の傾向が急激に低下しつつあります。特に、若年層の肥満率が高く、心臓病や糖尿病のリスクが増加している点が懸念されています。家森先生たちは、この現象を「沖縄の健康長寿の崩壊」と呼び、伝統的な生活習慣の重要性を再認識するように呼びかけています。

元気沖縄プロジェクト

2040年までに沖縄の長寿を取り戻す取り組みが行われて居ます。小学生に尿検査をおこなって、その結果を一人一人にデータを返します。ナトリウムが多いから塩辛い物を食べている、カリウムが足りないから野菜が足りないと、子ども自身に食事の過不足をつたえます。そして数ヶ月後に再度検査をして数値が良くなっているとのことです。検査をするだけで、栄養状態が改善するのです。子どもの食事が変わると家庭の食事もかわり、大人も変わっていきます。子どものうちから正しい食生活をみにつけ、長寿県沖縄を復活させようという取り組みです。(琉球大学益崎 裕章先生、東海大学森真理先生など)

青い鳥は日本にいた!

家森先生達の研究の成果から、究極の長寿食である「令和食」が研究の結果明らかになった!家森幸男先生が世界の長寿地域を調べてわかった「長寿の秘密を握る食材」は、日本の伝統的な食材だったのです。

世界を回って、再認識したことは、「和食のすばらしさ」でした。和食には健康長寿のための要素がほぼすべてそろっていたのです。日本の伝統食こそが理想の長寿食なのです。

家森幸男先生が提唱する「長寿の秘訣」

3つのS:適塩、魚、大豆

を減らせば寿命が延びるというデータが出ています。塩分を控えれば脳卒中だけで無く、胃がんや認知症、心臓病、腎臓病、骨粗しょう症などを予防できる可能性があります。塩を取り過ぎていても、カリウムをしっかりとることで、ナトリウム(塩)を身体の外に出してくれます。カリウムは、生の野菜や果物に多く含まれます。また、サツマイモのようなイモ類、大豆や小豆などの豆類、魚類、肉類にも多く含まれています。食塩の量を一日6~7g以下に下げると脳卒中の死亡率はほとんどゼロになると推定されています。WHOの目標値は一日5グラムです。

魚介類に多く含まれるタウリンによって、様々な健康増進効果が期待できます。タウリンには血圧を下げる作用があります。交感神経の緊張を鎮めることで血圧を下げてくれます。また交感神経が穏やかにないることで、ストレスも緩和されます。さらにはタウリンにはコレステロールや中性脂肪を下げる効果もあります。

大豆:大豆イソフラボンの健康効果

  1. 心血管の健康促進:コレステロール値を下げ、心血管疾患のリスクを減らす効果があるとされています。これにより、動脈硬化や心臓病の予防に役立つとされています。
  2. 骨の健康維持:骨密度を高め、骨粗しょう症のリスクを軽減する効果があります。特に女性にとっては、更年期以降の骨密度の低下を抑えるために有益とされています。
  3. がん予防:乳がんや前立腺がんのリスクを減少させる可能性があるとする研究があります。植物性エストロゲンの働きが、がん細胞の増殖を抑制するのではないかと考えられています。
  4. 更年期症状の緩和:大豆イソフラボンは、植物性エストロゲンとして作用し、更年期に伴うホルモンバランスの変化による症状(ホットフラッシュ、骨量減少など)を和らげる効果があるとされています。
  5. 肥満予防・ダイエットサポート:大豆は低カロリーで高たんぱく質、食物繊維が豊富なため、満腹感を持続させ、食事の過剰摂取を防ぎやすい食品です。また、大豆たんぱく質は、脂肪燃焼を促進し、体重管理にも効果的です。
  6. 抗酸化作用:大豆に含まれるビタミンEやフェノール類には抗酸化作用があり、細胞の老化を防ぎ、体内の酸化ストレスを減少させる効果があります。これにより、老化防止や生活習慣病の予防に繋がります。
  7. 筋肉の維持・増強:大豆は良質なたんぱく質を多く含んでおり、特に植物性たんぱく質として、筋肉の維持や増強に適しています。運動後のリカバリーにも役立ちます。
  8. 肌の健康改善:大豆に含まれる成分は、肌の弾力や保湿を保つ効果があり、美肌効果が期待されています。特にイソフラボンがコラーゲンの生成を助け、肌の健康をサポートします。

塩分の摂取を打ち消す工夫

カリウムをしっかりとる。ナトリウムとカリウムは身体の中でバランスをとることが大切なのです。ナトリウムに比べてカリウムが少ないと血圧が高くなりがちです。カリウムをしっかり摂取すると血圧が正常になりやすいです。その点でも塩を取り過ぎないことが大切なのです。塩をたくさんとってもそれを打ち消すくらいカリウムをたくさん摂っていると血圧は上がりすぎず、脳卒中が予防できます。カリウムは、生の野菜や果物に多く含まれます。また、サツマイモのようなイモ類、大豆や小豆などの豆類、魚類、肉類にも多く含まれています。

マグネシウムをとることも塩摂りすぎ対策に重要です。マグネシウムはとても足りない人が多いですが、栄養としてとても大切です。マグネシウムをとるために、ゆいクリニックではにがりをお勧めしています。また、マグネシウムを摂るのに、大豆や魚介類、玄米、わかめやひじき、干しエビ、野菜やキノコにも多く含まれています。

マグネシウム不足の方にお勧めの商品

適塩のための工夫

マグネシウムがたっぷりとれる切り干し大根は、食べやすい大きさに切って味噌汁に入れるだけ。事前に水につけて戻す必要はありません。味噌汁の出汁に使うかつお節や煮干し昆布はフードプロセッサーで砕いて、そのまま汁と一緒に頂くことでミネラルがたっぷりとれます。また、塩を取り過ぎない=「適塩」のための工夫は出汁です。出汁をしっかりとることも適塩に有効です。唐辛子、わさび、ハーブやカレー粉などを使うことで塩を少なくしても味をきかせられます。また、調理の際には、食材に塩を使うよりも、最後に塩を使った方が少量で、塩味が感じられます。ゆいクリニックでは、塩糀やしょうゆ糀を作っていて(塩やしょうゆを糀と一緒におくだけなので簡単です。)、それらも少量でより味を感じられる工夫になります。

高きびと野菜のライスペーパー春巻き

切り干し大根とわかめの胡麻酢和え

塩糀やしょうゆ糀の作り方

家森幸男先生推奨「令和食」

  • 野菜、果物をたっぷり食べる
  • 適塩を心がける
  • 脂質は控えめにする。
  • 主食主菜副菜をバランス良く食べる
  • 「まごわやさしいよ」食材を摂る。

豆類、ゴマなど種実類、わかめなどの海藻類、野菜、魚、シイタケなどのキノコ類、イモ類、ヨーグルト(ただし、乳製品はお勧めしない)

スーパーフードは存在しない

これさえ食べれば長生きできる、という食べ物はありません。加工食品たっぷりの食事に魚や大豆を食べても、健康になれるわけではありません。暴飲暴食はやめて、健康食を心がけることが大切です。晴れの日と基本の日があります。昔は晴れの日は年2回程度でした。私たちも基本を大切に毎日を過ごして健康でいられると良いと思います。

この記事を書いた医師

島袋 史 (ゆいクリニック院長)
  • ゆいクリニック院長
  • 島袋 史
  • Fumi Shimabukuro
  • 【資格】日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、ホメオパシー認定医、新生児蘇生法インストラクター。1970年東京都生まれ、1989年大学入学のため沖縄へ。1995年、琉球大学医学部卒業。琉球大学産婦人科入局。沖縄県内にて研修後、2011年にゆいクリニックを開院。4児の母。小児科医の夫と共に、多くの女性の出産・育児を支援するほか、更年期や月経トラブルなど女性のための治療を行い、ホメオパシーや栄養療法やプラセンタ療法などの自然療法も積極的に取り入れている。特に、小麦や砂糖、乳製品、食品添加物を一切使わない食事をクリニックで提供するなど、食事療法の重要性を説いている。